AI研究の第一人者でありチューリング賞受賞者のジェフリー・ヒントン氏は、かつて「放射線科医は不要になる」と断言していた自身の発言について、誤りであったと認めた。2016年、ヒントン氏は「深層学習は人間の放射線科医を5年以内に凌駕する」と予測し、新たな放射線科医を育成する必要はないとまで語った。

しかし現在、米メイヨー・クリニックなどの医療機関では、AIは医師を置き換えるのではなく、画像解析を支援し、診断精度を高めるツールとして活用されている。実際、メイヨー・クリニックの放射線科医は2016年から55%増加しており、AI導入によって人員が減るどころか増加傾向にある。

同院では250を超えるAIモデルが運用されており、腫瘍や血栓の検出、腎臓の体積測定など、従来は手間のかかる業務が効率化されている。放射線科部門を率いるマシュー・カールストロム医師は「AIは第二の目であり、臨床判断を置き換えるものではない」と語る。

ヒントン氏の発言は、AIによる職業の代替に対する過度な期待と現実のギャップを示す教訓となった。職業の全体像を理解せずに未来を語ることの危うさを、AI研究者自身が示した形である。

※本記事は、以下の記事をもとに翻訳・要約しています。
THE DECODER「Geoffrey Hinton’s wildly overconfident AI prediction failed—now it’s a lesson in humility」

コメント

AIが医療現場を変えるという期待は大きいですが、それがすぐに人間の仕事を奪うとは限りません。実際には、AIは医師の業務を効率化し、より正確な診断を支援する役割を担っています。ヒントン氏の発言のように、テクノロジーの進歩を過信しすぎると、本来必要な人材育成が疎かになってしまうリスクもあります。現場の知見と技術の融合が、これからの医療に求められる姿といえるでしょう。