米国著作権局は、AI業界がしばしば主張する「著作物をAIの学習に使用するのはフェアユース(公正使用)に該当する」という論理に異を唱えた。新たに公表された報告書では、AIによる著作物の利用が一般的にフェアユースに当たるとする複数の根拠を否定している。
同報告書では、人間の学習とAIの学習を同一視する業界の主張に対し、「AIは創作物の完全なコピーを高速かつ大規模に処理し、人間とは根本的に異なる方法で情報を扱っている」と指摘。AIが生成するアウトプットが、表現やスタイルの点で人間の作品に似ており、市場で競合する場合、それは「表現的な使用」に該当し、フェアユースの範囲を逸脱する可能性が高いとした。
また、著作権局は、AIモデルの学習データが海賊版サイトや有料壁の背後から違法に取得された場合、フェアユースの正当性はさらに損なわれると警告している。一方で、研究や分析といった非商業的な利用や、原著作物と競合しない生成物に限っては、フェアユースに該当する余地を認めている。
著作権局は新たな規制の導入には慎重な姿勢を示し、現時点では個別または集団によるライセンス市場の整備を優先すべきと提言している。既に一部の分野では自主的なライセンスの枠組みが構築されつつあり、広範な法改正よりも柔軟な運用が適しているとした。
なお、報告書公表の直後、同局長のシャイラ・パールマッター氏がトランプ政権により解任されたことが波紋を広げており、政治的背景との関係も注目されている。
※本記事は、以下の記事をもとに翻訳・要約しています。
THE DECODER「US Copyright Office says fair use does not cover AI trained on “vast troves of copyrighted works」
コメント
AI開発における著作権の取り扱いは、今後の産業構造に大きく影響を与える重要な論点です。今回の報告書は、AI業界が一括して「フェアユース」と主張することに歯止めをかける内容であり、開発側とクリエイター側のバランスを再考する契機となるでしょう。新たな規制ではなく、ライセンスの整備を促す柔軟なアプローチが提案されている点も注目です。コンテンツを守りつつ、AIの可能性を活かすための議論が、今まさに本格化しようとしています。